高血圧を治療するということ

高血圧を放置すると、将来、心筋梗塞に代表される動脈硬化性疾患を発症しやすくなってしまうことは前回まででお話しました。これはあくまで可能性が上がるというだけであって、当然、絶対にそうなってしまうというわけではありません。実際、高血圧を放っておいても90歳まで元気な方もいらっしゃいます。では、血圧が高い人の中で、将来心筋梗塞になってしまう方にはどのような特徴があるのでしょうか。

 

危険因子

これまでの研究成果によって、心筋梗塞になる人の特徴がある程度明らかになっています。動脈硬化性疾患の危険因子と言われるもので、高血圧以外には次のようなものがあります。

・脂質異常症

・糖尿病

・肥満

・喫煙

・慢性腎臓病

高血圧に加えてこれらの危険因子を合わせ持っている場合は、「将来、心筋梗塞や脳梗塞になってしまう可能性が、普通の人より高いです」と言わざるを得ません。これらの危険因子は長年かけて動脈硬化を進行させますから、40代でこれらを放置するのと、80歳になって初めて上がってきたコレステロールを治療せずに経過をみるのとでは、意味合いが大きく異なります。ちなみに、年齢が高い、男性である、家族歴がある(心筋梗塞になりやすい体質)ことも危険因子ですが、これらはどうすることもできませんね。

心筋梗塞や脳卒中になって亡くなったり寝たきりになる可能性を少しでも減らすために、今のうちから介入できることに対しては介入しておこう、というのが積極的に高血圧を治療する理由なのです。

 

 

包括的リスク管理

健診で血圧が高いことを指摘され“要治療”となった場合でも、病院では必ず前述の危険因子もチェックされます。血圧のことを相談に行っただけなのに、血糖やコレステロールの値を調べられ、さらには「瘦せましょう」とか「タバコを止めましょう」などとたたみかけられるわけです。患者さんにとっては不本意かもしれません。でも、そこには血圧を上げる原因をとっぱらってなるべく血圧を下げたいということに加えて、複数の危険因子を是正して、将来の心筋梗塞の魔の手から患者さんを守りたいという願いが込められているのです。実は。

 

最近、介入可能な危険因子をもれなく相手にして継続して管理する「包括的リスク管理」の重要性が複数の研究結果から示されています。

繰り返しになりますが、危険因子を放置してはいけません。まずはお近くの医療機関をお気軽に受診してご相談されることをお勧めします。

 

 

血圧はどこまで下げないといけないのか

高血圧の基準は、診察室で140/90mmHg以上、自宅安静で135/85mmHg以上でしたね。では治療開始後の降圧目標はどのように設定されているでしょうか。収縮期血圧を2mmHg下げると心筋梗塞による死亡リスクが約7%、脳卒中による死亡リスクが約10%低下すると言われていますが、下がれば下がるほどよいわけはありません。

現在の降圧加療の目標は下の表のようになっています。一昔前よりは厳しい値となっていますが、これは血圧と予後の関係を示す新たな研究データが発表されたことによります。つまり、以前より厳しめに降圧加療をされた患者さんの方が、脳心血管病の発病率と死亡率が低いことが分かってきたのです。今後も新しい研究成果が確認されるたびに、これらの数字は変わっていく可能性が高いでしょう。

降圧目標は、年齢や並存疾患によって変わりますが、患者さんの症状によっても設定を変更する必要があります。血圧は変動するものですから、自宅での血圧記録がたくさんあるほど目標達成の評価や、症状と血圧の関係の把握が容易になります。高血圧がある患者さんは、是非こまめに家庭血圧を測定していただければと思います。

 

高血圧/降圧目標/心筋梗塞/

  *高血圧治療ガイドライン2019より

 

つづく。